一ノ瀬圭太と食事した翌日から、国内だけでなく国外のタイルメーカーにも当たった。

昨夜の食事中に私が「サイズの違うものでならタイルのコストダウンも図れそうなのに…」と呟いたのを聞いて、向かい側に座ってた奴がこう言ったからだ。



「国内のタイル需要は確かに少ないけど、外国ではまだまだあるぞ。中にばかり目を向けてないで、外にも視野を広げてった方がいいんじゃないのか」


パスタ以外にも頼んだ魚のソテーを食べようとしてるところにそう言われ、思わず『目からウロコ』だと感心した。


「さすがデザイナーさんは目の付け所が違うよね」


ちょっとだけ褒めてやったら「当然だろう」と胸を張られた。
何だか少し頼ってしまった様な気がして、悔しさも残った夜だった。

別れ際に、「私と一緒に食事をしても良かったの?」と聞いてみたかったけど、さっきのように「決まってるだろう」と自信満々な態度を見せられのも癪だと思い、言えなかった。


握手もせずに遠のく背中を見送った。
まるであの肝試しの夜みたいに、寂寥感が胸の奥を掠めていったーー。






「お・お・た・さ・ん?」


耳の中に息が吹きかかり、ビクッと背筋が伸びる。
振り返るとアユちゃんがいて、ニコッと目元が細くなった。


「な、何?アユちゃん…」


ボンヤリとしてたから驚いた。