「もう!何すんのよ〜!」


ヒリヒリとする額に掌を当てて怒った。

一瞬だけど昔の記憶が蘇って、何だか擽ったい気持ちに襲われる。



(でも、もうあの頃には戻れないんだ…)


さっきの岡崎さんの言葉といい、今の一ノ瀬圭太の呟きといい、彼にはキチンとした相手がいるんだ…と確定した様な気がする。

私との間に何かがあるんだとオフィス内で噂が流れたとしても、それは全くの架空話でしかない。




「行こう。美味しいパスタの店に連れてってやるよ」


背中を向けて歩き始めた彼を追う。


「高級なお店なら嫌よ」

「大丈夫。普通の店だ」


振り返って笑う一ノ瀬圭太とは、もう二度と中学の時のような関係には戻れない。



(当たり前よね。何考えてるの…)



そう思いながらも、横を歩いていける今が幸せだと思った。

中学の頃と同じほろ苦さが、胸の奥で燻り始めたーー。