私はお礼を言われるようなことはしてないし、単純に彼に対して素直になれないだけのことだ。

自分は何処までも意地っ張りだな…とも思う。
「やり甲斐があるのはこっちもだ」と言って、笑ってやればいいのに。



「今日はもう仕事終わりなのか?」

「そうよ、誰かさんのせいで仕事進められなくなったから」


午後のラストにミーティングを持ってきた。
ゆとりちゃん達にも帰っていいと言ったし、部署に戻ったところでやる仕事ももう無い。


「だったら食事しよう」


急に何を…と言いたかったけど、この間のリベンジを果たしたいのかも…と思った。


「また?」

「うん。いいだろう」

「いいけど、この間みたいな所は勘弁してよ」


脂ギトギトのラーメン屋もパスだと言った。


「だったら大田の部屋で食事しようか。自分がいいと思う物作ればいいじゃん」

「どうして私が一ノ瀬君に手料理を振る舞うの!?そういうのは彼女に頼んでよ」


私の一言は余計だったみたい。
一ノ瀬圭太は視線を泳がし、「まぁ、そうだよな」と呟いた。



「もう子供でもないしな」


そう言う声が小さかった。
私は彼のことが気になり始め、何かあるんだろうか…と顔を覗いた。


「見てんなよ」


指で額を弾かれた。
笑う彼の顔を見ながら、こういう意地の悪いところがあったんだと思い出した。