「あの家は購入者の我が儘を聞く家なんだ。何もかもモデル通りに建てるとは言ってない」

「そりゃ、そうだけど…」


悔しいけどその通りだ。
一ノ瀬圭太は前回のミーティングで、これまでの様な画一的なものには拘らないでいこう…と言った。


「俺に電話してくる暇があるなら精々コストダウンに励めよ。あの三人組も使って頑張れよな」


「言われなくてもそうするよっ!」


電話口の向こうに向かって張り合った。

一ノ瀬圭太は可笑しそうに笑い、「次のミーティングまでにある程度の予算を組んでおくように」と言って電話を切った。




「悔し〜〜っ!!」


腹が立つけど資材のコストダウンを図らなければ、いつまで経っても話は先に進んでいかない。

モデルハウスを建てることがゴールなんだとしたら、今はまだスタートもせずにボヤいてるのと同じだ。



「ダッシュで始めないと!」


スマホを握りしめて部署へと戻る。

今頃、一ノ瀬圭太は勝ち誇ったような気持ちでいるのかもしれない。


(あいつの知らないところでコストダウンして、鼻を明かせてやるんだから!)


中学の頃のような敵対心が湧いてた。
あの頃も今も、私は一ノ瀬圭太につい乗せられてしまう。
 
歯痒いけど何処かワクワクしてる。
言いなりにはなりたくないけど、あの頃と同じように一緒のことに取り組めてるのが嬉しい。