人事を異動させるのは私じゃないから何とも言えない。
あのクマさん主任が異動を願うとも思えない。


岡崎さんの先導でリビングへ着いた。

そこでは既にテーブルの上に図面が広がり、見たことのある顔ぶれが数人首を揃えて座ってる。

一番奥の上座にいる一ノ瀬圭太は相変わらずのイケメンぶりを発揮していて、華やかなオーラを背負ってる。



「お疲れ様です。遅くなりました」


頭を下げてから顔を上げると、上座にいる男が微笑む。

それを見たアユちゃんが色めき立ち、「いや〜ん、イケメン〜!」と声を上げた。


(…アユちゃん、ここはコンサート会場じゃないから)


思わずこっちの方が恥ずかしくなる。


「噂通りにイケメンだな」

「あの人が大田さんと同級生なんれすか?」


舛本君が私に尋ねる。


「ああ…うん。まぁね」


同級生というか、ほぼ同期くらいの感覚しかないけど。


「座れば?大田」


掘りごたつ形式になってるテーブルの下に足を下ろせばと言って指差す。

それぞれに空いてる場所に腰掛け、テーブルの上に広がる図面を見入った。


「今回のモデルハウスのテーマは、『我が儘が言える家』にする予定です」


我が儘…と聞いて、ちらっと三人のゆとりっ子を見遣る。
三人共話を聞いてるふうには見えず、私は小さく息を吐いた。