「…おい、太田美晴」


フルネームで呼ぶ奴を振り返った。
営業部の人達の姿は見えず、ホッとして手を離す。


「いきなり人の服掴んで歩き出さないでくれよ」


やれやれと言いつつ着崩れたコートを整える男に向かって私は声を張り上げた。


「要らない言葉を言って私を巻き込むのは止めて!」


訴えに対してキョトンとした顔を見せる彼。


「要らない言葉なんて言ってないぞ」

「言ったじゃない!何よ『今はね』…て!」


今も過去も、私とあんたとの人生の接点は中一の一学期だけでしょーが!と叫んだ。


「私達はその時にたまたま学級委員を一緒にやらされただけでしょう!?」


なのに、何だってあんな意味深な言い方をする?


「何かあったって思わせた方がいいから」

「私にはそれが大迷惑よっ!」


「相変わらず突っ張るな」

「突っ張るような事を言わせてるのはそっちでしょ!」


「キィキィ煩い」

「何ですって!?」


「もういいから黙れ」

「誰が言う通りになんか……」


「太田美晴っ!!!」


「ひっ!」


ドスの効いた声に驚いた。
怒ってるような眼差しも向けられ、さすがの私も黙る。



「あー煩かった」


こいつは…昔とちっとも変わってない!


「ついでだから何か食べて飲もうぜ」

「だから、それは嫌だって、さっきも…」


「行くぞ」


勝手に行けば!?