「ごめっ…ちょっと考えさせて」


胸に手を押し付けて彼を離した。


確かに私は一ノ瀬圭太が好きだし、これからも一緒に仕事ができたらいいなと思う。


もしも彼氏として付き合えるのなら最高に嬉しい相手かもしれないし、こんな素敵な家で主婦が出来るなら願ったりかなったりだとも思うけど……。



イジワルだった彼と夢みたいな恋を始める?


夢じゃなくて、現実に……?




「大田美晴」



昔からフルネームで呼ぶ男の顔を眺める。

一ノ瀬圭太の『い』の字に、大田美晴の『お』の字は余りにも近過ぎて……




(……駄目だ。頭の中がグチャグチャで纏まらない……)



何て言って答えればいいの?

「うん」と言えば、ハイスペックな彼の恋人にも家族にもなれるの?


それって、私でもいいの?

他に誰でも似合いそうな人がいるのに?



目の前にいる男が呆れてる。

私がいつまで経っても答えを出しきらないせいだーー。




「あの…」


とにかく、何か言わないと。



「あー、もういい!」

「えっ…」


ぐいっと腕を引っ張られてしまった。

胸に押し付けられた顔が熱くて、心臓の音が煩くて堪らない。



「大田美晴が好きだっ!中学の頃からずっと、お前にしか心に居ない!」



引き離されて顔を見つめられる。

今までで一番近い距離に彼が居る。