イジワルな彼と夢みたいな恋を?

歯痒くて「待って!」とも言い出せない。


振り返った一ノ瀬圭太の視線とぶつかる。
この男に頼るのなんて絶対にヤダと感じた。



「さ…先に行っていいから」


一人にされたら困るのは自分。
でも、彼にだけは頼りたくない気がした。
見せたくなかった。
弱すぎる自分を。


「そう?じゃあ後からゆっくり来いよ。皆に待つよう言っとくから」


「ん…」


唇が震えて声が出せなくて、頷きだけを返した。

ガラッとドアを開けて行こうとする一ノ瀬圭太の背中をどれだけ止めようとしたか。


でも……。



(声が出せないよぉ)


真っ暗な音楽室に残されることが怖過ぎて、ぎゅっと目を瞑ることで精一杯になった。





「…仕様がないな」


足音よりも声が聞こえ、同時にヒョイと立たされた。
私の横には一ノ瀬圭太がいて、私の右腕をガッチリと掴んでる。


「足、出せるか?」


腕を引っ張るから必然的に足が出た。
一歩出たら、後は惰性のように歩き出せた。



「意地張るのも大概にしとけよ」


そう言いながらも歩調は私に合わせてくれる。


ドキン、ドキン…と胸の音が聞こえてきて、私の隣にいる男子が急に頼もしい騎士(ナイト)に見えた。


(これは今だけだ。外に出たらまたいつものイジワル野郎になるんだから)


そう思ってもどんどん気持ちが惹かれていく。