狭い家で育ったから、私は家族の存在を人一倍感じて生きてきた。
毎日が辛かったから、家族の顔を見れることが安心に繋がった。


絵里も居てくれたし、部活の仲間も居た。
でも、私には「家の中」が一番平和で落ち着けた。


家には人一倍思いが強かった。
だからこそ、住宅販売会社に勤めて良かったと思った。



家を購入する人達の思いを大事にしたかった。

「いい家」に住んで、幸せに暮らして欲しかった。

「温かい家庭」への手助けをしたかった。


そして、いつかは自分も同じように


「いい家」を持って


「温かい家庭」を作ろうと決めてたーー。





「大田」


ドアの前で立ち止まったまま、ぼぅっと窓を見てる私のところへ彼がやって来る。

名前を呼ぶから目を向けると、右腕が上がり部屋の隅を指差す。


中に一歩進んでそこを見た。
丸太木が見えて、夢だと思ってたものが置かれてあった。






「ブランコ…」


揺らしながらいろんな未来を描きたいと思ってたもの。

不安や恐怖も、揺れてる間は薄れていきそうな気がしたもの。



何故ここまで夢を現実化してくれる?

これが最後の筈なのに、どうしてこんなふうに幸せな気持ちにばかりさせるの?


「乗ってみろよ。一応大人でも乗れるように設計してある」


バカみたいに作り上げて。
私の言ったことなんて、間に受けなくても良かったのに。