イジワルな彼と夢みたいな恋を?

そう言うと顔を空に向けた。
その顔を見ながら岡崎さんの言ってた言葉を思い出した。


「この家には圭君の特別な思いが込もってる」


最後だから特別だった?
だから、無理難題を押し付けてきた?
 
だったら、どうして私の夢を形にする?
自分でも、他の人でも、婚約者でも良かっただろうに…。




「大田……」


名前を呼ぶ男のことを見て、直ぐには返事が出来ないくらい胸が苦しかった。

声を返さない私に目を向け、一ノ瀬圭太は優しい顔で笑う。

いつものように額を弾くこともしないから緊張は益々高まる。

何を言いだしたいのか、それがいいことなのか悪いことなのかも予想もしないで見つめた。



「……入ろう。見せたいものがあるんだ」


そう言うと目線を前に向けて歩き出した。

その背中を見つめながら、ホッとする反面焦らされたような気がしてイライラした。


ホントに何処までもイジワルな男だ。
私の心を逆撫でし続けて、楽しんでるようにしか見えない。


(心を逆撫でしてる?私は彼のことなんて、期待もしてはいけないのに……)


背中を見ながら自分の視点が彼にしか向いてないことに気づいた。

あの肝試しの夜と同じ。
周りに誰が居ても、何があっても、私の目には彼しか映らなかった。


離れてしまってもずっと、心の中に一ノ瀬圭太の棲む部屋があった。