カチャ。


(ん?)


鍵の閉まる音に振り返った。
私の後ろでドアを閉めた奴が、ロックから手を離そうとしてる。



「ちょっと」

「何?」


振り向く男の顔を見ながら胸が小さく弾む。


「どうして鍵を掛けるの?そんなことしたら誰も入れないじゃないの」


鍵はこいつか岡崎さん以外は持たないと聞いたのに。


「いいだろ。別に」

「良くない!」

「後から開けるよ」

「後からって…どうして!?」


「どうしてもだ。ほら、上がれよ」


そう言いながら自分はさっさとスリッパに履き替える。
一瞬、今のうちにドアのロックを開けようかとも思ったけど、結局それはせずに靴を脱いだ。


足先を上げてスリッパに通そうとしたら、一ノ瀬圭太がさり気なく二の腕を掴んでくる。
ドキッとして顔を上げると、「早く履けよ」と睨む。


「はいはい!」


どうも一々ドキドキしてるのは私だけみたいで悔しい。
こいつにとっては単なるフェミニストで、婚約者にはいつも同じような行動を取ってるんだろうと思う。


両足をスリッパに入れたら手が離れた。
掴まれてた辺りの部分が急に軽くなって寂しい。

なんだか肝試しの夜と同じだな…と思いつつ前を向いたら、玄関ホールは上から日が差して明るかった。

見上げるとドアの壁の上部に丸い明かり取り用の窓が付いてる。