「それは最後の最後で貼るんだ。そして、家に命を吹き込む役目を担ってる」


大真面目な顔をして言うもんだから揶揄えなくなった。

手の平に乗った小さなパーツを見つめ、一ノ瀬圭太が何て言うだろうか…と思った。



「あの、安川さん…」


あの我が儘なデザイナーだった現社長は、もしかしたらこんなモノを壁に貼るなと言うかもしれませんよ。

あの家には妙な拘りを持ってるらしくて、瓦の種類やタイルのサイズまで指定してきたくらいですから。


(しかも、値切れるだけ値切るように言うし!)


何処かで怒りの矛先が変わったような気がした。
一ノ瀬圭太が反対したら、私がこっそりと見えない場所に貼っておこう。



「お預かりします」


きゅっと握って工場を後にした。
時間も早かったから、モデルルームの建築状況を見て帰ろうと思った。


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先月の末から比べると、家は大分出来上がってた。
外観はほぼ整い、内装工事が行われてる。



(いい家だなぁ)


緑色の屋根にワインカラーのタイルが基調とされた壁。
こじんまりとした感じの家だけど、中がどんな風になってるのか入りたくなる。


「そうだ、写メらないと」


一人で見に行ったと話したら四人にまた怒られる。

スマホのロックを解除して、カメラアプリを起動した。
遠目から全体の雰囲気を一枚撮り、屋根や壁も写して回る。