新年度の仕事始めは緩やかだった。

資材部管理課の仕事も多くはなく、この時期はメーカーさんへの挨拶回りに努めながら、「今年度もよろしくとお願いします」と言って回る。


そんな中、タイルメーカーの工場主でもある安川さんの元へ向かった。
納期通りにタイルを納めてくれて助かりました…とお礼を述べておこうとした。




「おお、いっらしゃい!」


安川さんは人のいい笑顔で迎えてくれた。
丁度良かった…と言い、お礼もそこそこにお願いがあると話し始めた。


「実は一つだけ送りそびれたものがあってね」


待ってて欲しいと言われ、事務所のソファに掛けて待たされた。

大田さんは「あった、あった」と喜びながら走って来て、「ほら、これだ」と握り拳を見せる。


「実はこれが最後のパーツになるんだが」


最後のパーツと言われて「何ですか?」と立ち上がった。
手の中に握ってるらしく、自分の方へ手を広げてみせて…と仰る。


「?」


首を傾げて手を前に出して広げた。、手の平の中心に向かって、安川さんの大きくて丸っこい腕が伸びてくる。

何やら薄っぺらいものが手の平に乗せられ、するっと肉の厚そうな手が逃げた。



「これは?」


「心臓だよ。家の」


「家の心臓?」


コクン、と頷く安川さんの顔を見つめ、「ロマンチストですね〜」と揶揄いたくなったけど。