「来たね」


岡崎さんは私がモデルルームの玄関ドアを開けた瞬間に、待ち構えてた様な言葉を放った。


「来るだろうなと思ってたんだ」


相変わらずピシッとしたスーツ姿で玄関先まで迎えにきて、スリッパに履き替えてお上り…と勧めてくれた。


「わ…私、岡崎さんに…お聞きしたい…ことが…ありまして……」


ハァハァと短く息をする私に、「落ち着いたらどうだい…」と声をかけてくる。


こんな時に落ち着く!?
どうやって!?


「む、ムリですっ!!」


速攻で返事をしてスリッパを履いた。久しぶりにダッシュなんてしたから、歩き出して直ぐにつんのめる。


「おっと!危ない!」


岡崎さんに手首を掴まれて持ち堪える。
「すみません」と謝るよりも先に、「あの人事はどういう意味なんですか!?」と詰問してしまってた。


「一ノ瀬君が専務って……専属のハウスデザイナーじゃなかったんですか!?」


もう頭の中がグチャグチャで。
何処までが真実で、何が起こってそうなってるのかも謎すぎる。


「あのモデルハウスの図案は誰が描いたんですか!?一ノ瀬君の正体って何者ですか!?」


矢継ぎ早に質問する私を見下ろしたまま、岡崎さんは「とにかく少し落ち着けば」と言い張る。


「ムリですっ!今、とてもムリっ!」


思えば私がこんなにパニクるのはきっと初めてだと思う。