「これにします」
シロウさんにそれを見せると、彼は少し意外そうにしたあと、合点がいったように笑う。
「あいつにはあんま考えなかった新しい感じだな。いんじゃねえか?」
思いのほかの高評価に、つい顔が綻ぶ。
「アサヒのやつもそうだが、お前がそんな顔見せんのはアサヒにだけなのな」
「そんな顔、ですか…?」
「安心しきった顔って言えばいいのか?
ま、いいんじゃねえか。仲が良いのは悪いことじゃねえよ」
ぽん、と頭に大きな手が乗ったかと思えば、すぐに離れる。
背を向けたシロウさんの後ろ姿は、どこか小さく見えた。
「どこに行くんですか?」
「一服してくるだけだ。別にどこにも行かねえから、ゆっくり包んでもらえ」
私の言い知れない焦燥が、伝わってしまったのか。
珍しく冗談交じりに言うとシロウさんは、軽く笑って店を出て行った。


