その誰か、は言わずとも分かってしまう。
彼にとっての大切は、他には向けられることのない、純粋な想いから成り立っているから。
引き止める術が私にあるだろうか。
いや、ない。
せいぜい出来ることといえば、今夜の件を胸の内に留めておくということのみ。
危険を冒して来た彼のためには、それしかない。
余計なことをしたらそれこそ墓穴を掘ることにもなりかねない。
やんわりと、アサヒは包んだ私の手を外して、持ち上げる。
流れるような動作で、私の手の甲に軽く唇を押し当てると、変わらない顔で微笑んだ。
「今日だけは特別。この感情は僕も目を瞑るから。
だから、アリサも分かっていて」
それは、私を恋愛対象としては見ないと自分自身に牽制しているように窺える。


