運命の本

敵がここに近づく様子は一向にないらしい。あの魔力源の周辺で全て食い止められている。


「全部の敵の魔力が止まりました。恐らく全員戦闘不能、捕縛されたようです」


眉を寄せ、緊張した様子だった仄矢の表情が緩む。


「外に出ていい?」


私は我慢できず立ち上がった。


「お嬢様、私が先に安全を確認してから……」


「私と青さんで見てきます」


南天さんとオレガノさんがバリケードを除け始める。青と仄矢の二人で最後の棚を除け、出て行った。


私はもう完全に気を抜いていて、暇つぶしに棚の中に何か入っていないか調べていた。


「まだ安全と決まった訳ではない。あまり物音は立てないようにな」


「はーい」


南天さんに言われ、声を潜めた。青と仄矢は外で危険がないか確かめているんだ。私だって暇つぶししている余裕はないよね。
呑気な行動を反省した。


次の作戦では何が起こるのかな?今回はかなり厳しい戦いだったから、もっと力をつけないとな。
けど、力のつけ方がよくわからない。白旗の魔法のこともよくわかっていないし。


「敵は全て捕まったそうです。外に出ましょう」


暗い部屋に開けられた扉から光が差し込む。やっと外に出られる!


喉をチクチクと刺すような埃っぽいところから、安心して吸える外の空気に変わる。


「無事だったか。よかった……。やつら、魔力源が破壊されたことを知ると士気が下がっていた。思ったより早く終わったよ」


氷裁智さんはそう言って、くるりと回し剣を鞘におさめた。


「魔力の消費が多いと思ったら……あんなものが作られていたなんて。今回はありがとうございます」


判官さんがお辞儀する。


「こちらこそ、助けてくださってありがとうございます。天界に連絡はしたので、ハデス様ももう少しで戻って来られると……」


「おーい!」


上から声がした。見上げると、長い裾をはためかせ、ふわふわと降りてくる人たちがいた。


「待たせてしまったな」


肩より少し長い真っ黒な髪。両耳ぎわには他より長い毛が一房生えている。頭の上には王冠のようなものが浮かんでいる。背中にはしなる黒い竿のようなものが二つづつ生えていて、鮮やかに燃える火が点いていた。
左目の下に泣き黒子、右目の下に十字架があった。


「ハデス様……」


三人が姿勢を正す。この方がハデス様……。ハデス様に続き、ぞろぞろと降りてくる。