「早く寝たい……。」


ポツリと漏らす彼。


いやいや、今朝ですよ??


心の中でツッコミを入れてしまった。


変な人。


茶髪でキュッと結ばれたキツイ口。
どっちかといえばイケメン?かな。


ふーん…。


想像とは違ったなぁ


気のせいか、私と同じ雰囲気のような。


まぁ、誰が来ようと変わんないか。


幽霊が見えなくなる訳じゃ、ないんだし


「イケメンー!」


「しかもクールだね!きゃー」

ヒソヒソと関心の眼差しで見つめられる
彼。


うゎ、大変そう……


きっと人気者になるだろうな。


羨ましいーーとは思わない。


でも、幽霊さえ見えなかったら、
私の人生はどうなっていたのかな?


私の毎日は、きっと輝いていただろう。


ぶんぶんと首を振る。


違う、私は心を閉ざすの。


憧れなんて、持っちゃダメ。


ふぅ。と一つ息をつき、


私は心の中の余計な物をどかそうと


「授業始めるぞー」


先生の声を聞いた瞬間ノートを一心不乱に書き始めた。





「あ、あの……」


不意にかかった優しい声。


幽霊かと思ったじゃん……


思わず硬くした体をほぐし、
声のした方を向く。


声がしたのは前の席。


視線の先で
ふわふわなボブの髪の毛を揺らし私に遠慮がちな笑みを向けて来たのは


確か、水乃杏梨(みずの あんり)
……って子だったような。


他の子と会話なんてしないから名前がうろ覚えなんだよなぁ。


「消しゴム、落としたよ」


また、ふわっと優しい声を私に掛け
遠慮がちな笑みを見せる彼女。


由香里たちとは違う、温かな笑み。


「……っ」


久し振りだった。


こんな風に誰かに声を掛けられたのは。


私を氷のような冷たい瞳で見なかったのは。


私にーー
温かく微笑んでくれたのは。