斜め後ろからウェイドの声がして、その影が隣に来た。



「大丈夫、ヴィオちゃん。」



「ヴィオラです。」



ウェイドに言われた私は、同じように貴族の挨拶をしなかった。多分、これでいい。国王様も、優しい顔をしている。



「そうか。では、彼の幼馴染のユーマだ。私の友人が世話になったね。」



この挨拶で返してくれたってことは、この人もいい人なんだと思う。



「フィル…らで…。」



「だか…わ…て…。」



なにやら耳打ちをしていた。ほとんど聞こえなかったけど、かすかに聞こえた、フィル。多分、数年前に亡くなった、第二王女のフィル様だと思う。



「あのっ、フィル様がどうしたんですか?」



ウェイドにも聞こえていたみたい。



「あ、誰にも言わないって約束してね。実は、この城下の中で生きているって、ファレリア様の未来予知で仰ったことがあってね、時間を見つけては捜索しているんだよ。」



第二王女様が、生きておられる…。



「が、兵だけに任せたくないと、父親の彼もこっそりお忍びでくるようでね。仕事場はもう大変ったらありゃしない。」




なんか、ヴィーナス裏世界の王とまで言われている宰相が、ここまでお喋りだとは、思っていなかった。いや、優しい人なんだと思う。



「さてと。本当はお礼も兼ねて食事でもしたかったけど、この友人のせいで今仕事ははとても大変な状況でね。申し訳ないけど、お暇(いとま)せてもらうよ。」



「「はい。」」



国王様は忙しいはず。だけど、こんなにいい人だって知れた。話せただけで嬉しかった。



「我、聖霊に祈るは起源也。走り、縮め、動け、瞬間…。」



なんか、もの凄く詠唱が長い。



「ユーマの術式は瞬間移動だ。あいつの場合は視界外にも行けるが、その分詠唱や、精霊力を集める時間が長いんだ。」



大抵の移動系術式は、視界内のみと教えられた。つまり、この人は実力で地位や権力をも持っている。



「最上級術式、瞬間移動(ワープ)。準備が完了しました、行きますよ。」



「おっと、もうお別れの時間になってしまったか。今日は特に、抜け出してきてよかったよ。ありがとう、ウェイドくん、ヴィオラちゃん。次会うときは、王宮で。」



消える前に、私は叫んだ。