「ええ。いったん貴方を見逃して差し上げます。ただし、次会うときは生きて帰れないと思ってくださいね。」



なんだろうか。ブラックスマイルというよりは、恐ろしいなんて言葉では表せないほどの覇気を纏った感じだった。



「はぁ。その精霊級結界術式に関しては、正直関わりたくないのですよぉ。っていうかぁ?次会うときに帰れないのは、お前たちの方だ。ですぅ。」



一瞬ワントーン落とした声は、普通の人からすると怖いのだろうと思った。



「早くここを去りなさい。特攻隊のタクトは、先の戦争で戦死したとでも報告すればいいですから。」



「物わかりのいい王妃さんで何よりですぅ。では、また会う日まで。」



無詠唱の、瞬間移動だろうか。



「やっぱり、黒幕がタクトさんだったんですね。」



立ち上がれずに、座り込んでいる私。



「私は最初から目星をつけていました。彼が特攻隊に入ったのは、お母様が亡くなった直後。人手が足りず、基準や審査が少し甘くなっていた時代。気づけなかった、いえ、気づいていても、止めることのできなかったあの頃の自分が、とても恥ずかしい。」



「お姉様…。」



タクトさんのいた場所を見ながら、手をグッと握っていた。



「フィー、前特攻隊長から受け取った紙を貸してください。」



私は無言で紙を術式で引き寄せて、手渡した。



「この書類、王家の判がないと正式には通らないのです。まあ、フィーが押してもいいのですが、姉としてお祝いの意も込めて。」



そういうと、どこからか判子と朱肉が転移してきて、紙の右端に押した。



「これで、本当に…。」



「ええ。王宮側としても、正式に認めます。」



「う、うぁああああ!!」



王接間にはふさわしくないように泣き叫んでいる私。



仲間に裏切られた。隊長が死んだ。自分が隊長になったプレッシャー。



「フィー。泣けるうちに泣いておきなさい。涙も流せなくなる日が、必ずくるから。」



お姉様は、私を抱きしめるわけではない。どこか強く、何かを決意したかのようだった。