フィリアラは一瞬目を点にしてから、正面に立って頬を引っ張った。



「ブランは、ブランの信じることをすればいいのですよ!どうせ庇うなと言っても死に物狂いで庇うでしょ?そうじゃなきゃ、それはブランではない気がするのですよ。あなたの判断なら任せますよぉ〜。それで一人でも多くの人を救うことができるのなら。」



顔は一生懸命なのに、正装のヒールですら背伸びをして、それでも尚ギリギリほおに届くフィリアラの手。



「ああ、それでこそ我が妻にふさわしいよ、フィリー。」



優しくその手を剥がすと、後ろの埋め込んであって一見それとは思えないような洋服ダンスから、ラナフレムの紋章が刻まれた羽織(マント)を、バサッという音を立てて羽織った。



「それは貶してるのですか?褒めてるのですか?」



態とらしくほおをプゥっと膨らますと、少し吹き出してから、



「褒め貶してます。」



そう言って、はにかんで笑った。



「はぁ、頑張れとは言わないのですよ。あなたは、いつでも頑張っているから。信じてる、ブラン。行ってらっしゃい。」



「ああ、行ってきます。」



彼女たちのポリシーの一つ、キスは帰ってからでもできる。ということで今はまだ、抱きしめるだけで納めてスッと離れた。



「いい報告を、期待しているのですよ!」



「ええ、待ってて下さいね。」



扉が閉まった後に、フィリアラは泣き崩れ、防音加工が施してあるはずの壁から微かに聞こえるその嗚咽を背に、



「フィリーを泣かせる奴は、私が必ずッ!!」



そう言って廊下を歩いて行った。