ため息混じりに首を横に振ると、ゲキは私を抱きしめていた。



「絶対、死んだらゆるさねぇ。」



手が、声が、小刻みに震えている。



「うん、安心して。」



胸に顔を埋めているせいで、ゲキがどんな顔なのかはわからないけど、私だって、死ぬつもりはない。



「そろそろ行こうか?」



私がその言葉を発した時には、気づけば時計は5時を示していた。



「フィーちゃん、絶対……。」



「死なないって、何処へも行かないから。あんまり言っていると、フラグを立てるっていうらしいよ?」



「フラグ?」



私は孤児院にいた時に、そこの誰かが言っていたから知っているけど、ゲキみたいな貴族だと、俗語はあんまり知らないのかもしれない。



「そう、落ちる落ちるって言いながら落ちなかったりとか?死なない死なないって言ってると死んじゃうとか?」



「それは困る!でも死んでとも言えない……どうしようか……。」



素直に、馬鹿正直に悩んでいるゲキは面白い。



「フラグっていうのは、回収するためにあるんだよ?だから、立てなければいいの。」



「そういうものか?」



「そういうものだよ!行こっ!!」



術式は使わないで、歩いて王宮へ向かった。