「やめてください、シオン先輩。」



ポツリと私の口から静かに出たのは、その言葉。



「フィッ、フィーネちゃ……フィル様?」



「その呼び方もやめてほしいですが、争いは何も生まないから。

話せば分かり合えたはずのことも、それができないだけで知らない間に遠くに行ってしまった人を思うから。」



力の入らない足に鞭を打って、強引に立った。ゲキの支えを、借りることなく。



「どう生きたって、死だけは平等に訪れる。特に君は、今まで何度も間近でそれを見てきただろう?」



シラクスの言うことの全て、一概に間違っているとは言えない。正解(あっ)てることだってあるから。だからこそ、選ぶ言葉は間違えないつもり。



「確かに、死は遅かれ早かれ平等に訪れます。人間の情(それ)は、時に考えなければならないところもあります。けど、本当に見るべきところは、その人がどう生きたのか。自分がどうありたいかと願ったその情(ココロ)です。

長さでも、大きさでもない。深さなんです。」



そこまで言うと、ゆっくり着地したシラクス。



「いやあ、人間はいつの時代も面白いと私は思うよ。こういう時、人間ならどうするのかなぁ?」



考える仕草をしながら、聞こえてきたのは声と徐々に大きくなる足音。