言われなくてもなんともない。目覚めている感覚なんてものもない。



「じゃあ、水神様が目覚める時は…。」



「ええ、必ず彼が来ていましたよ。近くに。」



それが本当なら、精戦祭りのあの時も見に来ていたということになる。でも、それなら疑問がある。



「どうして水神を奪おうとしていた悪魔は、フィル様は存命だと知っていながら知りながら襲ってこなかったのか。答えてもらえますか?」



カイラ兄様は、ギリギリの線引きで聞いているらしい。冷や汗が一筋──



「──すみませんが、それは答えしかねます。まあ、瞬間(とき)を待っているとでも、まだ手を出していないとでも思っていてください。」



沈黙が、再び顔を出した。どちらが、どう出るのか…けどそれは、案外あっけなかった。



「おっと、そろそろシラクスが戻ってくるようです。私はこの辺で失礼しますね。」



そう言って手を払うと、来た時と同じ黒い羽が現れて、空中へ浮き上がった。



「待てッ!まだ話はッ!!」



「跡をつけようなんて真似したら、こんなふうに穏便に済ませる気はありません。いいですね。」



ライアン先輩すら一歩引かせるほどの冷ややかな視線。



「ひとつッ!」



そんな中、私の口は動いた。



「どうしたの?フィー。」



気を張っていたであろうさっきとはまるで違う対応に驚きつつも、拳を握りながら、感情を堪えながら聞いた。正確には、言った。宣言した。



「私の目標は精戦祭りで言った通り、どうなろうとファレリア様です。

ただ、あなたのようになるわけじゃない。けど、」



ファレリア様は体も心もに悪魔の手中にあるのは明白。私たちが悪魔を倒すその瞬間、あなたがもう一度王女として立ってくれるその日を夢見てそう言う。



「必ずあなたがいた場所にたどり着きます。

そして、あなたが見た景色と、見たかった景色のその先を見せます!!」



言い切った後、一瞬瞳が揺らいだ気がした。気がしただけかもしれないけど。



「その言葉、期待しますよ。」



そう言い残して飛び去ったその風には、禍々しさの中に優しさがあった気がした。



「俺らも一旦帰るぞ。今のことは国王に報告しなきゃなんねぇ。」



嵐の去った後には静けさが来るように、今この空間はそんな感じだった。