幸福に触れたがる手(短編集)







 夜、年越しそばを作ってリビングに運ぶと、篠田さんはソファーに横になって、わたしが昼間読んでいたミステリー小説を開いていた。
 しかもわたしが読んでいたところよりも進んでいて、もはや読破しそうだ。

「読むスピード早いんですね」

「これ前に半分くらいまで読んだんだけど、結局ラストがどうなるか分かんなかったから」

「よくミステリー小説の途中で読むのを止められましたね」

「知り合いが買って置いてあったのを勝手に読んだだけで、タイトルも作者も覚えてなかったから。改めて読むと面白いな。まさかここでこうなるとは」

「はあ」

「いやほんとまさか主人公が、」

「へえ」

「犯人はー……」

 結末を話そうとする篠田さんを見ていたら、彼は「あれ?」と首を傾げて本を閉じた。

「ネタバレしようとしてるのに、止めないの?」

「ああ、わたしネタバレされても大丈夫なので」

「まじ? それ楽しめる?」

「楽しめますよ」

「へえ……」

 元々ネタバレに対して過剰に反応していたわけではないけれど、元恋人が映画も小説も漫画もドラマも、触れた全てのものの内容を事細かに解説することをライフワークにしていたから、すっかり慣れてしまっていた。
 だから篠田さんが結末を話そうが、何も気にならないのだけれど……。

 それを説明しようと頭の中で話をまとめていたら、

「犯人はヤス」

「ヤス?」

 急に小説の登場人物にはいない謎の名前を言って、わたしの頬をぽんぽん撫でた。

「そば伸びるから食おうぜ」

「はあ、はい」

 わたしは撫でられた頬を擦りながら首を傾げた。