「毬っ」
背中から呼ばれて振り返る。
雅之が、息を切らしていた。
「雅之、どうしたの?」
毬は不思議そうに首を傾げる。
「どうって」
あまりに無防備過ぎるその態度に怒りを通りすぎて呆れた雅之は、がくりと肩を落とした。
龍星はよく身が持つなと感心さえしてしまう。
「勝手に屋敷を抜け出したら、心配するのは当たり前」
「だってキツネに呼ばれたんだもん。普通呼ばれたら行くわよっ」
頭ごなしに怒られた毬は思わず勢いで言い返す。
雅之は息を呑んだ。
「キツネって。
……妖狐?」
「八つ尻尾がついてたから、そうかもね」
怖い声で問いただされるので、意地になって冷たく返す。
雅之は頭を抱えた。
「……毬、俺の前ではともかく龍星にはそんな風に答えちゃ駄目だ」
「なんで?」
毬は簡単に気持ちを切り替えられず、不貞腐れた態度をとってしまう。
雅之は頭を掻いた。
これはもう、手に負えない。
「分かった。毬のお好きにどうぞ。
ただとりあえず、御所まで来てくれる?さる方がお呼びだ」
険のこもった声で雅之は言い捨てて歩きだす。牛車は安倍邸の前に待たせていた。
普段優しい雅之の突然の変貌に戸惑いながら、毬はその背中を追った。
背中から呼ばれて振り返る。
雅之が、息を切らしていた。
「雅之、どうしたの?」
毬は不思議そうに首を傾げる。
「どうって」
あまりに無防備過ぎるその態度に怒りを通りすぎて呆れた雅之は、がくりと肩を落とした。
龍星はよく身が持つなと感心さえしてしまう。
「勝手に屋敷を抜け出したら、心配するのは当たり前」
「だってキツネに呼ばれたんだもん。普通呼ばれたら行くわよっ」
頭ごなしに怒られた毬は思わず勢いで言い返す。
雅之は息を呑んだ。
「キツネって。
……妖狐?」
「八つ尻尾がついてたから、そうかもね」
怖い声で問いただされるので、意地になって冷たく返す。
雅之は頭を抱えた。
「……毬、俺の前ではともかく龍星にはそんな風に答えちゃ駄目だ」
「なんで?」
毬は簡単に気持ちを切り替えられず、不貞腐れた態度をとってしまう。
雅之は頭を掻いた。
これはもう、手に負えない。
「分かった。毬のお好きにどうぞ。
ただとりあえず、御所まで来てくれる?さる方がお呼びだ」
険のこもった声で雅之は言い捨てて歩きだす。牛車は安倍邸の前に待たせていた。
普段優しい雅之の突然の変貌に戸惑いながら、毬はその背中を追った。


