突然、辺り一面に霞がかかったように白くなった。
雅之は咄嗟に毬の手を掴もうとしたが、彼女はもうそこには居なかった。
「龍っ」
毬は心臓にギュッと締め付けるような痛みを覚え、屋敷に駆け出しその名を呼んだ。
「随分と情熱的な声をあげるんだな」
霞の向こうから、男の声がして、驚き、足を止める。
嘲笑うような、上から見下すような、それでいてどこか優しさを含んだような声に毬は目を細める。
「誰?」
「緑、俺のこと忘れた?」
切なさを帯びた声が響く。
「みどり?」
呼ばれた毬は記憶を辿る。
懐かしさを感じる、その見知らぬ名前。
「最後に一緒に蛍を見た。俺があれを死者の魂だと言ったら、お前は酷く怯えていた。
嵐山でのあの日々を本当に覚えていないのか?」
「嵐……山」
毬は記憶を辿ろうと目を閉じる。
「人間違えでなく?
全然あなたが見えないので」
毬はゆっくり話す。
「その声、間違えるはずがない」
霞の中からゆっくり人影が近づいてくる。
毬はもつれた記憶の糸を懸命にほどきながら、じっと目を凝らした。
雅之は咄嗟に毬の手を掴もうとしたが、彼女はもうそこには居なかった。
「龍っ」
毬は心臓にギュッと締め付けるような痛みを覚え、屋敷に駆け出しその名を呼んだ。
「随分と情熱的な声をあげるんだな」
霞の向こうから、男の声がして、驚き、足を止める。
嘲笑うような、上から見下すような、それでいてどこか優しさを含んだような声に毬は目を細める。
「誰?」
「緑、俺のこと忘れた?」
切なさを帯びた声が響く。
「みどり?」
呼ばれた毬は記憶を辿る。
懐かしさを感じる、その見知らぬ名前。
「最後に一緒に蛍を見た。俺があれを死者の魂だと言ったら、お前は酷く怯えていた。
嵐山でのあの日々を本当に覚えていないのか?」
「嵐……山」
毬は記憶を辿ろうと目を閉じる。
「人間違えでなく?
全然あなたが見えないので」
毬はゆっくり話す。
「その声、間違えるはずがない」
霞の中からゆっくり人影が近づいてくる。
毬はもつれた記憶の糸を懸命にほどきながら、じっと目を凝らした。


