彼女と話さない、今までの日常は。

驚くほどつまらないものだった。


今になって気付くことがたくさんある。

例えば俺が、彼女のどこが好きだとか。



授業中、先生の話を聞いている彼女の背筋はいつもピンと伸びていて。

なのに文字を書く時だけ、彼女の背は少し猫背になる。

一生懸命シャーペンを握るその背がなんだか可愛くて、彼女が本当に愛しい存在に思えてくる。


あと、話す時に指遊びをしているのが好きだ。

たぶん本人は気付いていなんだろうけど、彼女は人と話をしている時に、自分の指と指とを触るクセがある。

真剣な話をしている時はその指の動きが止まるもんだから、なんだか見ているこっちが笑いそうになる。


口角が上がるその笑顔も、澄んだ声だって僕は好きだ。

どこを好きになったのかは分からないけど、どこが好きなのかははっきりと分かる。

声に出して、言うことだってできる。



だけどもう。

彼女の世界と俺の世界が、交わることはない。



今日も今日とて、時間は巡る。


あの日、呆然としている俺を置いて彼女は走ってどこかに行ってしまった。

そのまま彼女が帰ってくるはずもなく、俺は繁華街の真ん中でぼーっとしていたけど。

ポケットに入ってた携帯電話の振動(あれだ、マナーモードのやつ)でやっと活動を再開した。



どうやって家に帰ったかなんて、覚えていない。