Phantom (ファントム) ~二人の陽人〜



店長の言葉の後、ウエイターの水島が続ける。

「レストルームの中も探しました。
お忙しい方だと思うので、急用でキャンセル?とも考え、他のスタッフにも確認しましたが、誰もそんなお申し出を受けた者はいません。それにこれが…」

ウエイターの視線の先には、椅子の上に置かれたハルのハットがあり、その下に隠れるほどの大きさのバッグがあった。

「万が一、急な用件でお帰りになられたとしても、帽子だけなら忘れても、バッグを忘れることはないと思うんです。
貴重品も入ってるでしょうし…。
それにドアボーイにも聞いてみましたが、帰られてはいない筈だと…。
有名芸能人の方ですので、見過ごす事はないと思う、と言っていました。
まるで狐につままれたような気分です。
何でもいいから、手掛かりが欲しいんです」

水島が困り果てたような顔を向けたので、美希が答える。

「俳優の…日浦陽人さんが後から来るんだとお聞きしました。私達にSNSとかに投稿したりしないでね、って、遠慮がちに仰っていました。騒ぎになるとお店にも迷惑がかかると気遣われたんだと思います。けれど、私達も日浦陽人さんらしき姿は見ていないんです」