「あの…モデルの藤崎陽人さんがいらっしゃってたのは、私達、知ってます。
私、ファンなので、声をかけてしまい握手して頂きました。
その後、姿が見えなくなって結構長い時間経っていたので、実は私達も気にしていたんです。
でも、個室とかに移られたのかと思ってたんですが、違うんですか?」

「はい、うちの店には個室はありませんから」

美希の問い掛けにウエイターの水島が答える。

「え?じゃ、どこに…」

「それが、わからなくて…」


「そうでしたか。お客様は藤崎様と直接お話されたんですね?
その時、何か変わった様子はありませんでしたか?
焦ってる様子だったとか、どこかから電話やメールがあったとか…」

「いえ。私が藤崎陽人さんじゃないかと気付いた時は、メニューを見てましたし、スマホを触ってるとかそんな事もありませんでした。
私達が席まで行って声をかけたんですが、とても穏やかで優しく接して下さいました。
私達はその後、席に戻ると、すぐにお料理が運ばれて来たので、食事を始めました。食事をしながら、藤崎さんの席を見るともう姿が見えなかったんです」