Phantom (ファントム) ~二人の陽人〜



「ハルーーッ!」

「どこだーーッ!」

何度も、何度も、名前を呼ぶ。
自分の声が森の中に響いて聞こえるだけで、それに答える声はない。



暗い森の中、月灯りだけが頼りだ。
足元はよく見えず、木々の堅い根でできた地面の隆起に爪先を掬われ、派手に転倒した。

ザザザーッと土の上に滑り込むと、土煙が鼻と口に舞い込む。
膝を強打し、地面で擦れた掌の傷がまた痛み出す。

「痛って…。クッソ!何だよ、これ!何なんだよーッ!」

未だに受け入れ難い状況に、アキの苛々が募り、うつ伏せに倒れたまま、力任せに地面を叩く。
掌の傷からまた血が溢れ出し、指先が痺れているような感覚に陥った。




…どんな過酷な状況でも、撮影なら耐えられる…
…だって、本気出して頑張ってたら、そのうち監督の「カット」や「OK!」の声がかかるんだ…
そして、その瞬間、自分らが居るべき現実に戻ることができる…。





なぁ…
これは本当に現実なのか?
現実に起こってることなのか?