そして撮影の日、挨拶と打ち合わせをした時は、寡黙で真面目そうな雰囲気だったので、少し見込み違いだったか?
勝手に過大評価してしまったのか?
…と少し不安になった。
しかしいざ撮影…となったら、彼のスイッチが入るのが見えた気がした。
彼の持つ佇まい、動き、表情に、心が震えた。
イメージ以上のものを、彼は表現してくれたからね。
ただ感嘆して彼の世界に入り込んでしまっていた私は、監督がOKを出す声に、やっと正気を取り戻した。
演劇ならスタンディングオベーションをしたいくらいの気持ちで、拍手をしながら彼に歩み寄った。
思わず彼を抱き締め、背中を叩き、お礼を言った。
彼はもう寡黙な青年に戻っていたようで、ただ照れ笑いをしていたけどね。
成功は間違いない、そう確信した。
それほどの逸材に出会えたことに感謝した。
CMは大ヒットして話題にもなり、商品も売れた。

