食事を終えた家族連れの幼い姉弟が、沢山のオーナメントで装飾されたクリスマスツリーの近くに来て、見上げてはしゃいでいる。


それに気付いた女子大生達は、その微笑ましい光景を見ていた。
目が合った菜穂子がニッコリと笑い掛けると、幼い女の子は笑って手を振り、彼女達も笑顔で手を振り返す。


「さ、帰りましょう」

優しく上品そうな母親が迎えに来て、美希達に微笑んで会釈すると、姉弟に手を差し伸べた。

「バイバイ」

美希が姉弟に声を掛ける。

「今日は、“メリー・クリスマス” って挨拶するんだよ」

男の子が辿々しい言葉で、自慢気に教えてくれる。

「あ、そうだよね。メリー・クリスマス!」

「メリー・クリスマス!」

無邪気な明るい声でそう言うと、幼い姉と弟は両親に手を引かれ、扉を開けて、賑やかな街中へと出て行った。



ハルが消えた席には、椅子の上に、ハルが被っていたハットが誰にも知られずに残されていた。