…何?!
今、何て言った?…
コウモリの大群は依然として二人の間を飛び回り、その羽音に掻き消され、ハルの言葉はアキにはしっかりと聞き取れなかった。
しかし、ハルの唇は、確かに「愛してる」と動いたように見えた。
「日浦くん、君は、そんなにこの男が大切なのか?」
ハルを捉えたままの男が、階段の上からアキに向けて低く冷たい声を放つ。
「ああ、大切だよ!だから、ハルを返してくれ!頼む!」
「ふっ…それが確認できて良かったよ」
「何?何を言って…」
「…返して欲しければ、取り戻しに来るんだな」
アキの言葉を聞いて、口角を上げて満足そうに笑ったデイビット伯爵は、次の瞬間、大きなマントを翻し、ハルの身体を頭からすっぽり包んだ。
そして……
二人一緒に、一瞬にして、背後の壁の向こうへ消えた………
最後にハルの手が、アキを求めるように宙を掴んで…
そして、暗闇の中へと消えて行った。