不意に隙をついて、ハルがデイビット伯爵の腕を振り払った。
目の前の、吹き抜けの二階席へ上がる階段を駆け上がる。
しかし、束の間の無駄な抵抗だった。
辺りを見回してみても、もう逃げ場などどこにもなかった。
階段の上に集結したコウモリに行く手を阻まれ、ハルはその場から動けない。
そして冷酷な笑みを浮かべながら、ゆっくりと階段を上がって来たデイビット伯爵に、再び捉えられてしまったのだ。
ハルを捉えた男が、顔を隠していたマントの襟に手をかけ顔を出すと、アキを見下ろし、不敵に笑った。
「え?…デイビット…さん?」
「久し振りだね…。日浦陽人くん」

