俯き加減にハルの身体を押さえていたデイビット伯爵がゆっくり顔を上げた。
暗闇の中、マントの襟が顔に影を作り、その顔立ちはアキにはよくわからなかった。
しかし、その目が…
瑠璃色の瞳が…
アキを真っ直ぐに捉えた――。
「…う…っ…」
アキの身体は、途端に硬直したように動けなくなり、その足は一歩も踏み出せなくなってしまった。
普段は全く意識することなく、脳からの指令は身体や手足に伝わる。
しかし、いくら身体に「動け!」と念じても、足に「走れ!」と命令しても、
その意思は全く自分の身体に伝わらない。
まるで自分のものではないみたいに動かない。
動けない。
「くそっ!何だよ、これ!」
頭の中は苛立ち、首から上は動くのに、まるで何かで縛られ拘束されているみたいだ。
デイビット伯爵の大きな筋張った手が、ハルの胸から鎖骨をゆっくりなぞり、首筋を撫で上げて行く。
そして顎から頬をガッシリと掴んだ。
顔を顰め、観念したように目を瞑るハル。
伯爵はその掴んだ手でハルの顔を持ち上げ上を向かせると、苦悩に歪んだ顔を見て、満足そうに笑った。
…口の端に牙?!
ヴァンパイア?!…いや、まさか!
でも、あの顔立ち…どこかで見覚えが…。
アキの頭の中は忙しく混乱していたが、それでも身体は金縛りに遭ったように全く動かせないでいた。

