「ハル!」

思わず、大声でその名を呼ぶ。

その声に気づいたハルが、必死の形相で叫んだ。

「アキ!アキ!来るなーーっ!逃げろーッ!早く!」


何が何だかわからないが、とんでもない事態が目の前で繰り広げられている…。
それだけは確かだったが、ハルを置いて一人で逃げる訳には行かなかった。

咄嗟に怯んでしまった身体に力を込め、前へと一歩を踏み出す。

アキは目の前を飛び交うコウモリを腕で振り払いながら、少しずつハルのいる方へと向かおうとした。



「痛っ!」

その時、手がコウモリの固い羽に当たり、痛みを感じた。
見ると右の掌がザックリと切れ、血が滲み出している。
すぐにその傷口から、血が手首の方へと垂れて行くのがわかった。
それでもアキは、その掌を固く握り締めると、ハルの元へと少しずつ向かって行った。