幸い、老紳士と少女は、アキのことを知らないようだったが、横断歩道のど真ん中で目立つ行動をしてしまったと思い、ふと我に返る。



「あれ、…アキじゃないの?ほら、日浦陽人」

「えーっ?まさか…」

「でも、あの身のこなし。この前やった映画みたいだったよ」

そんな声があちこちから聞こえ、視線も感じる。足を止めた人達が確認しようと近付いて来るのがわかった。


アキはそれに気付かない振りをして、うつむき加減にマフラーで顔を隠すようにして足早にその場を立ち去る。

そして約束の店へと向かいながら、腕時計を覗いた。