「はい、これでいいのかな?」

息を切らしながら少女の前にしゃがんだアキは、その手首を取って白い毛糸の手袋をはめた小さな掌に、大切な落とし物を乗せる。
それは、銀色に輝く十字架に、そこから繋がるチェーンに濃い青の石が一定感覚に施されているロザリオだった。


「うん!お兄ちゃん、ありがとう!」

掌のロザリオを見ると、涙で睫毛と頬を濡らしながら、少女は満面の笑みを向けた。


「お怪我はありませんか?本当に何とお礼を言っていいいのか…」

グレーの厚地のロングコートを着た、白髪の老紳士が、オロオロしながら背中を丸め、眉毛を下げて、本当に申し訳なさそうな表情でアキを見つめる。

サイドミラーに接触したであろう腰骨辺りに、少しだけ痛みを感じたが、たいした事はない。

「僕は大丈夫です。ご心配なく」