老紳士が自分からアキに目を移した隙をついて、少女が掴まれた腕を振りほどき、横断歩道に一歩を踏み出そうとした。

瞬時にアキは少女の肩を掴んで動きを制した。

「大丈夫。ここで待ってて」

言葉と同時に、アキは横断歩道へと飛び出す。
歩行者用信号は点滅を止めて、赤に変わった。

車用の信号が赤から青に変わるまでのタイムラグ。
しかし、そんなのはごく僅かな時間だ。
信号待ちの車はもうスタートの体勢に入っている。

そしてブレーキからアクセルに踏み変え発進させようとした瞬間に、突然飛び出してきた一人の青年に、運転手達は驚き、あちこちでブレーキ音とクラクションが鳴り響く。


キキーッ!
フライング気味に発進して来た一台の車が急ブレーキをかける。
間に合わずに接触してしまい、アキは思わずバランスを崩して転倒しそうになる。しかし、すぐに体勢を立て直した。


アキは頭上で大きく両手を振ると、
「少しスタートを待ってくれ」と車の動きを制するようなジェスチャーをしながら、横断歩道の途中で小さな光を放つネックレスへと駆け寄り、それを掌へと収めた。

そして、運転手達に頭を下げながら、アキは走って舗道へと戻る。

エンジン音を立てて一斉に動き出す、車の列。

そして車の群れは、何事もなかったように横断歩道の上を行き交う。