ハルが店の扉の中に入って行ったのを見送ってから、アキも店に続く階段へ向かおうとしたその時、後ろで幼い女の子の泣き声が聞こえた。

その声に振り返ると、今、アキが渡って来たばかりの大通りの横断歩道を渡り切る手前で、横断歩道へ戻ろうとして泣き叫ぶ少女と、それを嗜めながら舗道へとその腕を引っ張る老紳士の姿があった。


「やだー!拾いに行かなきゃ!パパから貰ったネックレスが!」

「ダメだ!もう信号が赤に変わる。危ないから!」


少女は今にも老紳士の腕を振りほどき、横断歩道に飛び出して行きそうな勢いだが、歩行者用の信号は既に点滅をし始めている。

横断歩道の手前では信号待ちの車が、信号が青に変わるのを待ち構えるようにエンジンをふかしている。


「どうしました?何か落とし物でも…」

状況を何となく把握したアキは、老紳士と少女に駆け寄る。


「パパから貰ったネックレスを落としたの。早くしないと車にひかれちゃう!」

少女が泣きじゃくりながら指差す先を見ると、横断歩道の上に小さく光る物を見つけた。