「すみません。あの…藤崎陽人さん…でしょうか?」

小声で呼び掛けられ、ハルが顔を上げる。

「あ、はい…そうです」


美希の顔が一瞬で上気して満面の笑みに変わる。

「あ、あの…私、何年も前から大ファンなんです。
冬休みを利用してたまたま旅行に来てて、まさかお会いできるなんて思わなかったので、失礼ながら声掛けてしまいました。ごめんなさい」

「そうなんだ…ありがとう。別に謝らなくていいのに」

緊張気味に、そして周りに聞こえないよう気を遣いながら小声で話す美希に、ハルが笑顔を見せる。


正直、声を掛けられた時、
「しまった…もう見つかった」
と思ってしまった。
でも、こうして気遣いながらも嬉しそうにされると、邪険にできないどころか、
嬉しく思ってしまう。