「はい!カットー!」


その声に、二人は走る足を止め、息を弾ませながら顔を見合わせた。

「アキ、足、速過ぎだろ~」

ハルは額の汗をコートの袖口で拭うと、両膝に手を置き、背中を丸めて荒い呼吸をしながら訴える。

「え?そうか~?でも、ま、俺はドラマや映画でしょっちゅう走らされてるからな。慣れだよ、慣れ」

アキは、全く余裕な様子で、ハルに向かって淡々と答える。

「何だよ、その余裕。ムカつくな〜。
でも、そういや、アキの出てるやつ、いつもどっかで必死に走ってるもんな」

「うん、何でだろな…。何故かそんな役ばっかり回って来る」

「しかもクールに走れるしな。汗も殆どかいてないだろ。
俺なんか見てみろよ。この乱れっぷり。何もかもヨレヨレだよ〜。
あ〜、あちぃ〜!」

ハルはコートを脱ぎ捨て、首に巻いたストールを勢いよく引き剥がすと、Tシャツの襟首を掴み、身体に空気を送り込むようにバサバサと揺らす。

「 “ 非情なイメージで ”、と監督から言われたから、そうしただけだよ」

アキは黒のコートに手袋をはめたままの姿で、そう答える。

「これだよ、これ!俳優気質ってやつ?」

「そんな突っかかるなよ」

「誉めてんだよ!何?お前、鈍感?」