「そうだけど!都会の人はこんなの慣れてるかも知れないけど、私達のような地方の人間には、こんな事、滅多にない事なんだよ。もう一生ないと思う。
それにさ、年末ライブの抽選、外れちゃったんだもの。観に行く事もできないんだもん」

美希は、両方の掌を固く握り、必死に訴える。

「う〜ん、そうかぁ…。気持ちはわかるだけどねぇ」



「じゃあさ、とにかく行ってみる?
断られたら、ごめんなさいって謝って戻ればいいんじゃない?
取り敢えず、ここよりは近くで顔拝めるよ」

もう一人の友人、菜穂子が緩くウエーブのかかった髪を肩の辺りでいじりながら、軽い悪戯を仕掛けるように言った。

「うん!行ってみたい」

「いい?美希。断られるのは覚悟ね。
梨香の言う通り、芸能人だってプライベートの時間なら、本当は邪魔されたくなんかないんだから。
そこに敢えて行くんだから、こっちは直接喋れただけで儲けモノだと思わなきゃね?もし、意外に感じ悪くても…だよ」

菜穂子は、最後に少し茶化すような感じで美希を諭す。

「うん、わかってる」

上擦った声で話していた美希が立ち上がり、緊張の面持ちでハルの席に向かう。
その後ろを二人もついて行く。