ドアボーイが恭しく頭を下げ、木製の重そうなドアを開ける。
軽く会釈をすると、ハルは店の中に入って行った。
店内は暖かく、アンティークなインテリアも落ち着きを感じさせる。
かなり古い貿易商社だかの建物を改修工事してレストランに造り変えたらしいというだけあって、レトロ、クラシックという言葉がピッタリするような内装だ。
予約の名前を告げ、ウエイターに導かれるままに、ハルは店の中へと進む。
落ち着いた感じの木製の壁。同系色のテーブルと椅子。
天井から下がる真鍮(しんちゅう)の枠に厚みのあるガラスがはめ込まれたライト、
その傘は温かな柔らかい灯りを包み込んでいる。
『clair de lune』(クレール・ド・リュンヌ)この店の名前だ。
フランス語で「月の光」という意味らしい。
このライトの灯りは、まさに穏やかでそんな佇まいを感じさせる。
入口から少し進んだところに、まるで客を迎えるように、今時のきらびやかさとは一味違う、これもまたレトロな雰囲気のクリスマス・ツリーが佇んでいた。
店の中程には時代を感じさせるような雰囲気の暖炉があり、暖かな火がゆったりと燃えていた。
「うん、落ち着いてていい感じだ。
アキも気に入る筈だ。この店にして良かったな…」

