アキの身体を抱き上げ、車に近づいて行くと、男性が手を触れてもいないのに、まるでタクシーのように後部座席のドアが開いた。

驚いて彼の顔を見ても、彼はただ微笑んでいるだけだった。
車の後部座席に二人で乗り込んだ後、後ろでドアが閉まる。


脱力したままのアキの半身を自分の膝の上に乗せてシートに座り、背中に手を置いてその体温をもう一度確かめる。
そしてハルは大きく溜息をついた。


「では、動きますね」

運転席に乗った彼が、バックミラー越しに声をかけてくれる。

「お願いします」

バックミラーに写った、深く優しげな瞳に向かって、ハルはそう答える。



発進した車のシートに深く身体を埋めるように座り、山道の揺れとサスペンションの振動に身を任せていたら、突然睡魔に襲われ、その後の記憶がまるでない。

ハルは、自分の意識から解放されるように、どんどん眠りの中に吸い込まれて行き、深い闇の中でただ泥のように眠っていた……。



      〜最終章へ続く〜