ザッ、ザッ、ザッ、ザッ…
背後から同じように走る足音が聞こえる。
遠くに聞こえていたその足音が、どんどん自分との距離を詰めて来たように感じ、藤崎陽人は怯えた表情で振り返ると、走るスピードを上げた。
上げた…つもりだったが、焦る気持ちに足がついて来ない。
おまけに薄手のコートの裾が、脚にまとわり付くように邪魔をする。

「くそっ!」

苛立つ気持ちを宙に吐き捨てながら、前へ前へと大きな一歩を踏み出す。



その少し後ろを日浦陽人(ヒウラ アキト)が追い掛けて走る。
黒いロングコートの裾と、襟足まで伸びた髪をなびかせ、無表情で目を見開いたまま、その様は藤崎陽人とは全く対称的に見える。

息苦しさなどは全く感じさせず、まるでサイボーグか何かのように、スピードをどんどん上げながら走る。
その冷静そうに見える彼の目の奥は、獲物を捕らえる鋭い眼力を携えている。


走る二人の距離がどんどん縮まって行く。



黒革の手袋をはめた右手が、後ろから伸びて来て、前を走るその肩を掴める距離まで来た……。