「大丈夫ですか?」
柔らかな声で呼び掛けられ、ハルは動きを止める。
「こんな場所でお困りでしょう。良かったら乗って下さい」
近くに来てやっと認識できた彼の顔立ちは、とても柔和で、ハルは少し安堵する。
それでも、油断はできない…と思った。
「いや、でも…」
戸惑い、アキの身体を抱く右腕に力を込めたハルに、彼は倒れたままのアキを掌で指しながら言った。
「心配しないで下さい。
私はその方に、車に轢かれそうになったところを助けて頂きました。
ですからご恩返しをしたいんです」
「え?アキに?」
「はい、イブの日の夕方のことです」
…イブの夕方?
ダンスのレッスンを終えて、あの店で待ち合わせをする前の話か?
銀色の緩いウェーブがかかった長めの髪、色白の肌の外国人中年男性は、上半身を前屈みにしてハルに話し掛ける。
彼の服装は、まるで中世の時代を描いた映画で見たような格好で、乗っていた車ともイメージが合う。
そして、その首にかけられた、チェーンに青い石が施された銀色のロザリオが、胸の前でゆらゆらと揺れていた。