その車は、舗装のされていない山道を、土と砂利を踏み潰す音をさせながら近付いて来た。
そして、ハル達の前で鈍いブレーキ音を立てて停まった。


車体の大きさや形、サイドミラーがボンネットの前方寄りにあることから、かなり旧式の外車だということがわかる。
こんな車が見られるのは、多分博物館くらいだ。

やはり俺達は、あの店から単に瞬間移動でこの森に連れて来られたのではなく、時を超えて、かなり昔の時代に迷い込んでしまったに違いない…。



ヘッドライトの灯りの中を舞う土煙と、やたら大きなエンジン音が、恐怖心を煽る。

ライトの光に晒されたハルは、顔の前に手を翳しフロントガラスの向こうを凝視しようとするが、光が眩し過ぎて、運転者の顔は全く見えない。

そして、運転席側のドアが大きく開いて、背の高い男が降りて近づいて来た。
あのヴァンパイアと似た長身の男…。

ヘッドライトの光を背に受けている男の顔は、逆光になっていて全くわからない。


再び襲って来た恐怖心に、アキの身体を腕で抱き、腰を下ろした状態のままハルは後退りをする。