もう一度あの男にこの身を差し出す覚悟を決めたハルは、抱きかかえていたアキの身体をそっと外そうとした。

この温もりを離したくない。
まだ躊躇う気持ちが邪魔をする。

そんな気持ちを振り払おうと自分の心と闘っていた時、ハルの目に小さな灯りが飛び込んで来た。


目を凝らして見ていると、暗闇の中を小さな二つの灯りが蛇行しながらだんだん大きくなり近づいて来る。

その灯りに照らされ、この森から、狭く曲がりくねった道路が続いているのが見えた。



車だ!車が近付いて来る!
助けを求めようか…。

しかし、その車の主が、自分たちがここから抜け出す為の手助けをしてくれる相手とは限らない。


あの男の仲間かも知れない。

危機感を感じながらも、ハルはその場所から動けないでいた。
もう車は、自分達の姿を認められるほどの距離まで近づいている。
姿を隠す場所もない。

きっとあの男に襲われた場所に、俺の亡骸がないことに気付き、俺達二人を探しに来たに違いない。

もうどのみち、逃げ場はない、ということだ。

それならそれで、もう一度この身を差し出すだけだ。
決心はついている。